10段階のグラデーションは、自分で出せる鉛筆の色の幅を知り、自在に扱えるように作り出し方を習得するためのものですが。
しかし、実際に鉛筆デッサンでグラデーションを用いる際には、ただ色を塗ってモチーフの明度を整えればいいというものではありません。
デッサンの手法には個人差があり一概には言えないのですが、一般的に、誰でも基礎的な力を付けるという意味では以下の方法が挙げられます。
手元に目安を置く
なお、最初は自分で作った10段階グラデーションを目に見える所において練習してください。
その10段階が、今のあなたが使える色の幅です。
「最も明るい部分」「やや明るい部分」「やや暗い部分」「最も暗い部分」などにどの色を使うかを適当に決めるのではなく、「10段階のどこを使うか」と考え、バランスを意識しながら決めてください。
計画的に色を使うことができれば、「使いたい時に使いたい色が使えない」という事態を避けることができ、後述する「効率化」の役にも立ちます。
柔らかい鉛筆で荒く塗る
広い色面でグラデーションを作る際には、5Bや6Bなどの柔らかい鉛筆を、なるべく横に寝かせて塗る方法があります。
この方法の注意点は以下の通りです。
- 鉛筆の粉を紙にのせるようなイメージで、力を入れすぎない
柔らかい鉛筆で強く塗りこむと取り返しがつきませんから、ともかく軽く軽くを意識してください。
デッサン開始時には、モチーフのボリュームや光の方向を定めるラフ段階でこの描き方を用いることが多いです。
大まかな計画作成に用いるため、あまり細かくグラデーションさせることはありません。
一例としては、塗っていない紙の白が「光が当たっている面」で、鉛筆で塗った部分が「光が当たっていない影の部分」という陰影の計画に用います。
BやHBで線を重ねる
鉛筆デッサンのグラデーションと言えば、線を重ねて表現することが基本です。
大まかに陰影を付けた後、軽目に鉛筆を持って素早く線を引き交叉させます。
鉛筆の硬さ、尖り具合、隣の線と間隔、他の線との重なり方などの線をを工夫することで、「面に色が塗られているように見せる」方法です。
一番分かりやすいのはハッチングやクロスハッチングと呼ばれるもので、非常に重要な技法と表現です。
線のストロークを自在に操る
線でグラデーションを作成する場合、その線の「長さ」は重要です。
「ストローク」と呼ばれる物で、簡単に言えば一息で途切れなく引かれた線を指します。
このストロークの長さや質を調整することで様々な表現を行います。
10段階グラデーションをつくる過程で、面を塗るための線の長さや強さを工夫したはずですから、それを実際のデッサンでも用いてください。
構造線を利用する
物には凹凸(おうとつ)があり、何らかの起伏が存在します。
そしてほとんどの物は立体であり、多くの面で構成されています。
グラデーションをハッチングで用いる場合、この立体表面に存在する起伏や凹凸を手がかりに線を引くことが重要です。
これは、人間の目が錯覚を起こしやすいという点を利用するために用いる、基本的な要素です。
線で特定の方向性を強調することで、2次元である紙の上の絵に3次元のような立体感を持つモチーフを作り上げることが可能です。
例えば瓶の丸みを出すには、右端上部のエッジから左端下部のエッジまでを線で結ぶように線を重ね、その際どの道を通すかで「立体感」を演出します。
「どの道を通すか」というのは、任意の2点を線で結ぶ場合にまっすぐに最短を目指すか、上や下、または左や右に膨らむような線を引くことだと言えます。
地球儀の経線などをイメージしてもらえれば、わかりやすいでしょう。
この「膨らみ」を目が錯覚して、物体表面の「丸み」や「立体感」があると感じるため、デッサンが平面ではなく奥行きがあるものに変わります。
鉛筆の硬さを意識する
いくら線が上手く引けて立体感を出せても、鉛筆デッサンでは質感が表現できないと評価が低くなります。
質感の表現方法は色々とあるのですが、立体感を出すためのグラデーションに用いる鉛筆の硬さを活かす方法もあります。
具体的には、金属やガラスであれば2hや4hなどの硬い鉛筆で長いストロークを用います。
ストロークの影響で硬質な印象を与えることが可能です。
反対に、柔らかいものやモッサりしたものは3Bなどで短く太い線を細かくつなげることで表現可能です。
効率を考える
基礎練習としては、最初はとにかく納得いくまで突き詰めてください。
ですが、徐々に手数を減らし、最小の手数でグラデーションを作り、立体感や質感を表現できるように意識する必要があります。
実技試験では、限られた時間内に複数のモチーフを描かねばなりません。
モチーフの一部の質感が完璧にできても、他が真っ白では合格はほぼ無理です(絶対にとは言えませんが)。
受験のデッサンでは効率化を意識しないと痛い目を見ますから、受験に向けて意識や技術を高めていきましょう。